予防接種の受け方(2);考え方の実際

スケジュールを組む上での当院の基本的な考えは以下の通りです。

 接種を延期するとその間にその病気にかかる可能性があるので、「接種を待つ(つまり延期をする)」ことは間違いだと考えます。 風邪(咳や鼻水の症状)やアレルギー性鼻炎や下痢・中耳炎や「とびひ」などでのシロップや抗生剤などの内服で治療中であっても、予防接種は予定通りに受けて、決して自己判断で延期しないようにしてください。そのような病気の場合でもまた薬を内服中であっても、予防接種によって獲得される抗体には影響ありません。ただしロタワクチンは下痢のときは控えてください。
次に実際にどう考えているかを記します。

① 定期接種も任意接種もすべてを、なるべく同時接種で受ける。
 
 任意接種とは「定期接種ではない予防接種」です。「任意」とは、接種をするかどうかは最終的には親が判断をする、という意味での「任意」(=意思)で、「受けても受けなくてもどちらでもよい」という意味ではありません。
 予防接種がアグレッシブな行為・作業であるからこそ、可能な限り早く接種するようにしましょう。

② ヒブ・肺炎球菌・4種混合・B型肝炎を先に接種してから、その後にBCGを接種する。
 
 BCGは、生後3カ月以降で1歳の前日までが公費負担の対象ですが、標準が「生後5カ月から7カ月」となっています。
 以前は標準が「生後3カ月から5カ月」でしたが、幼いころにBCGを接種すると結核性骨髄炎が増えた、という事実から、標準の接種時期が少し大きい年齢に移動しました。
 ヒブ・肺炎球菌を3回、4種混合とB型肝炎を2回接種したあとで、4種混合と一緒に接種をするのが良いです。
 具体的なスケジュールは、次の「(3);受ける順序」で示します。

③ 1歳以上での水痘・おたふくかぜは、一回接種では充分な抗体獲得が期待できない(一回の接種では、それだけでは充分な抗体がつかない場合と、一旦充分に抗体がついても時間の経過とともに抗体が減って行く場合の両方)ので、水痘は最短3カ月以上空けて、おたふくかぜは最短4週間空けての2回接種を勧めます。
 
 その病気が流行していない国や地域の生ワクチンの2回接種のスケジュールは、1回目が1歳で2回目の接種が5歳から7歳頃です。 欧米等の非流行地域ではそういうスケジュールであり、2回目接種までにその病気にかかる可能性が極めて低いこととそのような接種間隔の方が抗体が長く持つからです。
 現状として水痘やおたふくかぜの患者さんが年間数十万人いる日本は、非流行地域ではなく、5歳から7歳頃までの2回目の接種までにその病気にかかってしまう可能性があるので、接種間隔はもっと狭いほうがよいと考えます。
 おたふくかぜの2回目は5歳から7歳でよい、とする医療者は、接種間隔は流行状況に依ることが全く分かっていません。

④ 日本脳炎は東アジア・東南アジア・南アジアの地域に限られた疾患であり、日本では南の地域ほど罹りやすい特徴があるので、「標準で3歳以上から接種」ではなく、公費の負担がある「生後6カ月から」の日本脳炎の予防接種を勧める。
 
 千葉県では2015年に生後11か月の子供が日本脳炎に罹ったことから、生後6カ月からの接種を勧めています。
 また日本小児科学会も、おそらく千葉県での発症者を踏まえてだと思いますが、「日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児、最近日本脳炎患者が発生した地域・ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、生後6カ月から日本脳炎ワクチンの接種を開始することが推奨されます。」と「お知らせ」を出しています。
 実際に日本脳炎に罹る可能性がまずない北海道でも、人の移動(国内や海外)が多くなってきていることから2016年4月から日本脳炎は定期接種となりました。
 ですから2011年に1歳の子供が日本脳炎になった沖縄では、生後6カ月からの接種が必要です。

⑤ 現在使える4種混合ワクチンは3種類(テトラビック・クアトロバック・スクエアキッズ)ありますが、スクエアキッズを選択する。
 
 テトラビック(阪大微研)とクアトロバック(化血研)に含まれるポリオの成分は、2012年8月まで国内で使われていた弱毒化された経口生ワクチン<セ―ビン株>を不活化したワクチンで、スクエアキッズに含まれるポリオの成分は、世界中で使われている別の野生株<ソーク株>(ポリオワクチンの商品名はイモバックスポリオ)です。
 テトラビックとクアトロバックのデメリットは、世界で初めてのセ―ビン株の不活化ポリオワクチンには歴史と実績が無い点です。製品ができてから数年しか経っていないので、接種を終了して10年後・20年後の抗体の維持に関しては何も判っていませんし、弱毒化された生ワクチンをさらに精製したワクチンの数十年後の抗体には不安があります。
 その点、現在のソーク株ワクチンは既に20年以上の使用経験と累計で約3億本の使用実績があります。
 生ワクチンではなくソーク株ワクチンの予防接種でポリオを根絶したスウェーデンの実績があります。

⑥ ロタウィルスワクチンに関しては、3回接種のロタテックを勧める。
 
 ロタウィルスは、冬場から春先に流行する子供の急性ウィルス性胃腸炎(嘔吐や下痢)の原因のウィルスでは最も多いです。ロタウィルスの胃腸炎では嘔吐が続いて脱水となり入院になることが多いのですが、小児の脳炎では、インフルエンザ、突発性発疹を起こすウィルスについでナンバー3の原因ウィルスでもあります。
 ロタリックスは2回接種でロタテックは3回接種で、ともに経口のワクチン(シロップ)です。ロタリックスとロタテックを直接比較したデータはありませんが、ロタウィルスワクチンは、入院を要するような重症のロタウィルス胃腸炎や脳炎を防ぐ目的である、と私は考えています。
 メーカーの公表しているデータを比べると、重症のロタウィルス胃腸炎の予防効果が大きいロタテックをお勧めします。
 ロタリックスは日本では先行発売だったので日本ではロタテックよりはシェアは大きいのですが、海外ではその逆です。

⑦ 毎年のインフルエンザワクチンを勧める。
 
 現状としては予防効果が十分ではない点は仕方ないのですが他に予防する手段がありませんので、集団免疫をつける意味合いでも予防接種は受けるべきです。
 インフルエンザに罹る人が減れば、インフルエンザでの悲惨な症状としてのインフルエンザ脳炎や脳症に罹る人も減ります。
 若年者のインフルエンザが減れば高齢者のインフルエンザの罹患者も、そしてインフルエンザで亡くなる高齢者も減ります。
 インフルエンザに罹患すると、学校は最低で5日間の出校停止となりますし、その間に家族にうつってしまうことも多く、親が仕事を休まなくてはならなくなります。
 そのように、インフルエンザに罹ることは社会自体にとっての大きな負担となりますので、極力かからないように予防しましょう。
 
⑧ 不活化ポリオワクチンは、4種混合ワクチンとして「最初3回を4~8週間あけて接種をして3回目からおおむね1年後に4回目を接種する」ですが、4~6歳での追加(5回目;自費)を勧める。
 
 欧米等ではポリオの最終接種は、おおむね4歳以上です。これは先ほどの水痘やおたふくかぜの2回接種の事情と似ていて、抗体を長持ちさせる意味です。
 日本では1歳半程でポリオの予防接種が終わってしまいますので、恐らくその後の抗体が長続きはしないと考えます。
 世界的に見て1歳半程の小さい年齢でポリオの接種が終了する国は、日本以外には2か国しかなく、先進国では日本だけです。

⑨ 肺炎球菌ワクチンが7価(PCV7)で終了している方には13価の肺炎球菌ワクチン(PCV13)の追加を勧めます。  ただし6歳未満(5歳以下)が対象で自費です。
 
 2013年(平成25年)の10月末までの肺炎球菌ワクチンは7価でしたがその後はすべて13価のワクチンに変更となっています。
 アメリカでは同様の切り替え時には13価のワクチンの公費負担での追加接種がありましたが、日本は見送り(つまり放置)ました。対費用効果がない(つまりかけた金額に対しての効果が少ない)という理由でした。
 親子手帳を確認して1歳での肺炎球菌ワクチンの追加(4回目)が7価で終了している方は、13価ワクチンの追加を勧めます。
 7価でカバーできなかった他の6種類の肺炎球菌の型の抗体が期待できます。

⑩ 髄膜炎菌ワクチン(メナクトラ)<自費>を、2歳以上で日本脳炎などその年齢までに接種するべき予防接種がすべて終了している方に勧める。
 
 4価の髄膜炎菌ワクチンで、2歳以上が適応の筋肉注射です。「とりあえず」一回の接種です。
 髄膜炎菌は耳慣れない菌ですが、IMD(invasive meningococcal diseases;侵襲性髄膜炎菌感染症)の原因菌であり、メナクトラは、IMDを起こしやすいサブタイプの5つ(A、B、C、W-135、Y)のうちの4つ(A、C、W-135、Y)をカバーしています。
 どのサブタイプが多いかは世界の地域で違い、日本では以前はBとYが多かったのですが、最近はYが多くなっています。
 IMDは、髄膜炎菌の重症感染症(菌血症や敗血症、髄膜炎や髄膜脳炎、ウォーターハウス・フリードリクセン症候群)のことです。
 IMDは進行が早く、数時間から2日間程度で死に至る可能性が大きい疾患です。
 患者さんの多くは、0歳から5歳までとティーンエージャーです。
 B型に関しては、海外の製品(Bexsero、Trumenba)しかありませんし、また5価のワクチンはありません。
 髄膜炎菌は、咳やくしゃみに含まれて他人から感染して鼻咽頭の粘膜で増え、そこから血管に侵入して血流に乗って多くの臓器に拡がっていきます。
 菌血症や敗血症では、突然の発熱と、特徴的なのは皮下出血(点状あるいは大きな出血斑)を伴うことで、ショックや多臓器不全になることが多いです。
 髄膜炎では、他の菌による髄膜炎と同様で、発熱・頭痛や嘔気・嘔吐と、場合によっては意識障害があります。
 IMDでは治療がうまくいっても後遺症を残すことが多く、聴力の喪失(聞こえない)や神経学的な損傷(うまく動かせない)、そして四肢の喪失(腕や脚の切断)などがあります。
 Youtubeでもそのような患者さんを見ることができます。
 日本でも年間に週十人の発生があり、その多くは寮で集団発生していて、亡くなる方がいます。
 確かにかかるリスクは小さいのですが、一度かかるとその重症度は群を抜いて高いので、考慮してもよい予防接種だと思います。
 アメリカなどでは定期接種となっていますので留学する予定の方、そして髄膜炎菌の感染症が流行している地域に行く予定の方(特に南サハラ地域)は是非接種してください。

 以上です。

 次は、「受ける順序」です。


2018年1月18日