予防接種

問診票は、あらかじめ記入できる欄には全て記入してきてください。
母子モのサービスが利用可能なら、それでもかまいません。。
体温も家庭で測ったもので可です。

受ける順序

予防接種の実際のプランです。
以下読む上での注意を一点だけ書きます。
「4週間以上空ける」とは、「4週間後の同じ曜日なら可能」という意味ですので、厳密には「27日以上空けて」という表現となりますが、分かりにくくまた誤解を招くことがありますので、そのような意味合いで理解してください。

予定を組みうえでは、
①同じ種類の予防接種を2回以上接種する場合は、4週間以上空ける
②異なる種類を接種する場合は、「生ワクチンの注射<MR、水ぼうそう、おたふくかぜ、BCG>同士は4週間以上空ける
 2020年9月までは、「生ワクチンの後は4週間以上、不活化ワクチンの後は1週間以上あける」が、国際的なルールへと変更されました。
 2023年4月には、「4種混合が生後2か月から」となりました。
 また2024年4月からは、4種混合+ヒブの5種混合ワクチンとなります。
 5種混合ワクチンの導入でのスケジュールの見直しと、おたふくかぜが流行っていないことを考量して、おたふくかぜの2回目は水痘の2回目といっしょに接種するスケジュールとしました。
 
 5種混合から接種し始める方のスケジュールです。

<プラン1>;もっとも積極的な接種方法で、ホームページの初めにも掲載している方法で、お勧めです。

生後2カ月 ;ロタ①、肺炎球菌①、5種混合①、B型肝炎①
その4週間後;ロタ②、肺炎球菌②、5種混合②、B型肝炎②
その4週間後;ロタ③、肺炎球菌③、5種混合③
生後5カ月 ;BCG
生後6カ月 ;日本脳炎①
その4週間後;日本脳炎②、B型肝炎③(初回のB型肝炎ワクチン接種後20週間経っていなかったら、日本脳炎②単独で、その後1歳の前日までにB型肝炎③)
1歳    ;MR①、水痘①、おたふくかぜ①、5種混合④、肺炎球菌④
1歳3カ月  ;水痘②、おたふくかぜ②
1歳7カ月頃 ;日本脳炎③(日本脳炎②から1年以上経ってから)

<プラン2>;1歳での同時接種を少し減らすには、

生後2カ月 ;ロタ①、肺炎球菌①、5種混合①、B型肝炎①
その4週間後;ロタ②、肺炎球菌②、5種混合②、B型肝炎②
その4週間後;ロタ③、肺炎球菌③、5種混合③
生後5カ月 ;BCG
生後6カ月 ;日本脳炎①
その4週間後;日本脳炎②、B型肝炎③(初回のB型肝炎ワクチン接種後20週間経っていなかったら、日本脳炎②単独で、その後1歳の前日までにB型肝炎③)
1歳    ;MR①、水痘①、おたふくかぜ①
その翌日以降;5種混合④、肺炎球菌④、(あるいはその逆の順序で)
1歳3カ月  ;水痘②、おたふくかぜ②
1歳7カ月頃 ;日本脳炎③(日本脳炎②から1年以上経ってから)

 4種混合とヒブから接種し始めた方は、以下のスケジュールがお勧めです。

<プラン1a>;もっとも積極的な接種方法で、お勧めです。

生後2カ月 ;ロタ①、ヒブ①、肺炎球菌①、4種混合①、B型肝炎①
その4週間後;ロタ②、ヒブ②、肺炎球菌②、4種混合②、B型肝炎②
その4週間後;ロタ③、ヒブ③、肺炎球菌③、4種混合③
生後5カ月 ;BCG
生後6カ月 ;日本脳炎①
その4週間後;日本脳炎②、B型肝炎③(初回のB型肝炎ワクチン接種後20週間経っていなかったら、日本脳炎②単独で、その後1歳の前日までにB型肝炎③)
1歳    ;MR①、水痘①、おたふくかぜ①、ヒブ④、肺炎球菌④
その4週間後;おたふくかぜ②(あるいは1歳3か月時に水痘と一緒に)
1歳3カ月  ;水痘②(あるいはここでおたふくかぜ②もいっしょに)
1歳5カ月  ;4種混合④(4種混合③から1年以上経ってから)
1歳7カ月頃 ;日本脳炎③(日本脳炎②から1年以上経ってから)

<プラン2a>:1歳での同時接種を少し減らすに:

生後2カ月 ;ロタ①、ヒブ①、肺炎球菌①、4種混合①、B型肝炎①
その4週間後;ロタ②、ヒブ②、肺炎球菌②、4種混合②、B型肝炎②
その4週間後;ロタ③、ヒブ③、肺炎球菌③、4種混合③
生後5カ月 ;BCG
生後6カ月 ;日本脳炎①
その4週間後;日本脳炎②、B型肝炎③(初回のB型肝炎ワクチン接種後20週間経っていなかったら、日本脳炎②単独で、その後1歳の前日までにB型肝炎③)
1歳    ;MR①、水痘①、おたふくかぜ①、
その翌日以降;ヒブ④、肺炎球菌④、(あるいはその逆の順序で)
MR①、水痘①、おたふくかぜ①接種の4週間後;おたふくかぜ②(あるいは1歳3か月時に水痘と一緒に)
1歳3カ月  ;水痘②(あるいはここでおたふくかぜ②もいっしょに)
1歳5カ月  ;4種混合④(4種混合③から1年以上経ってから)
1歳7カ月頃 ;日本脳炎③(日本脳炎②から1年以上経ってから)

 最終的には、受診時の接種希望者の事情を考慮してスケジュールを組みますので、上記のスケジュールが強制ではありません。

なぜ予防接種を受けるのか?

以下は当院(向井)の考え方で、他院の方針に干渉するものではありません。

 まず予防接種を受ける上で最も大事なのは、「予防接種で防げる病気」(vaccine-preventable diseases;VPD)は最悪の場合は命を落としたり、生存しても重大な後遺症を残す可能性がある病気だ、という点です。
 「予防接種で防げる病気」に罹ることなく普通に社会生活を維持するために予防接種があります。決して「受けても受けなくてもよい」ものではありません。
 予防接種は「予防接種で防げる病気」の抗体を積極的に作るアグレッシブな行為・作業です。
「予防接種で防げる病気」に罹ると、その期間は集団生活ができない(学校や保育園・託児所に通えない)、あるいは社会生活ができない(友達と遊べない、買い物に行けないなど)等の本人にとっての学習や生活面での不利益や、保護者が仕事を休まなければならない等の経済的な負担があります。また、自分が病気になって、兄弟や周りの人にその病気をうつして様々な不利益を与える可能性があります。
 「予防接種で防げる病気」の、過去の悲惨な流行や多くの後遺症が残った教訓に学んで、次第に現在の予防接種ができてきた経緯があります。
 天然痘(絶滅しました)やポリオがそうです。
 科学技術の進歩で段々と改善されてきたのが現在の予防接種で、まさに科学技術の恩恵です。
 「予防接種で防げる病気」は生後6か月ころから1歳過ぎまでに、感染したら重症になることがあります。だからこそ、生後6か月ころまでにしっかりと抗体をつけておく必要があります。なので、「大きくなって抵抗力が増えてから予防接種を打つ」という考え方は、そこの理解がないのです。
「自分の子どもは罹らない・罹るはずがない」ではなく「かかる可能性があるからそれを予防する」のです。
 予防接種をしない場合の不利益が予防接種にかかる費用を上回ると考えられる場合には、社会が予防接種の費用を負担しても総合的には社会の出費が減りますから、その場合には公費の負担の予防接種(定期接種)となりますが、そうではないと判断される場合には公費の負担とならず、「任意」の予防接種となります。
 「任意」とは、「接種をするかしないかは、保護者の決断と責任で決まる」という意味で、決して「接種してもしなくてもよい」という意味ではありません。
 時代や状況の変化での費用の増減や流行状況等の様々な条件で、「定期」か「任意」かが決まります。
 国や地域でそのような事情は異なりますので、すべての国で同じスケジュールで、ということはあり得ません。
 
 現在の日本で予防接種を受ける順序で大事なのは、今の時代の病気の流行状況の中で、何歳頃にどういう病気にどれほどかかりやすくてどれほど重症になりやすいか、という点ですが、最近は予防接種を受ける順番はおおむね固定してきました。
 予防接種の種類が多いので、同時接種(一日のうちに2種類以上の予防接種をうける)がお勧めです。
 同時接種は、病院を訪れる回数を減らすことで、待ち時間や他人との接触による感染を減らすことができますし、スケジュールを順調に早く終わらせることができます。
 同時接種で発熱などの症状が出る可能性は、単独で接種していても同様の症状が出る可能性がある程度で、決して「複数を同時に接種をしたから増える」訳ではありません。
 違う種類の感染をしても免疫がそれぞれにできるからこそ、混合ワクチンができる基礎があります。
 現在日本では4種混合ワクチンや13価の肺炎球菌ワクチンがあります。
 ですから同時接種には本数の制限はありません。
 「2種類だけ」とか「3種類だけ」に制限しているクリニックで、4種混合と肺炎球菌やヒブを接種しているのは、いわば「矛盾」です。
 注射は痛みを伴いますので、できればいっぺんで痛いことを済ませるのがいいのではないかと考えます。
 
 その社会の大多数の者が予防接種を受けて抗体を持ち、その社会がその病気が流行しにくい状態にある場合に「集団免疫がある」と表現します。
 その集団免疫を獲得するのが予防接種の役割です。
 集団免疫がある場合には、その社会に「予防接種で防げる病気」の菌やウィルスが入ってきても、社会全体では決してアウトブレークはしませんが、その病気の免疫がない個人の小集団ではアウトブレークは起こりえます。
 だから、多くの方が予防接種を受けておかないといけませんし、集団免疫を早くつけるためにも早めに予防接種は受けるべきです。
 
 「すべての予防接種はなるべく早くに受ける。」
 当院はそのような方針で臨んでいます。

いくつかの質問

一般的なことは、このホームページの「よくある質問」の欄に掲げてありますのでそちらをご覧ください。
ここでは、是非とも次の4点は書いておきます。

Ⅰ;自然に罹った方が免疫は強く付くから罹ったほうがよいか?

 予防接種をしておかないと、その病気になって命を落としたり一生続く後遺症が残る可能性があります。予防接種はそういう歴史・事情があってできてきたのです。後遺症がなくまた重症化することもない病気に関しては予防する意味がないので、予防接種のワクチンを作る理由がありません。
 「自然に罹った方が免疫は強く付くので予防接種はしない」方針の方は、いつもそう思うのですが、「自分の子はその病気に罹らない・かかっても命にかかわったり後遺症を残すことがない・他人にうつすことがない」というまったく主観的な「信念」が前提となっています。でもこれはただの「「思いこみ」にしか過ぎません。
 誰にでもその病気にかかって重篤な状態になる可能性があります。「予防接種反対派」は、その可能性を否定します。「ただの風邪だ」と。
 沖縄県南部での検診で親子手帳をチェックして水ぼうそうの予防接種を受けるつもりがないと言った母親にその理由を聴いたら、「上二人が水ぼうそうに罹っても軽く済んだから」と答えたのは、「誰にでも重篤な状態になる可能性がある」ことを、残念ながら全く理解していないからです。
 「自然食品(やハーブ、オーガニック等様々です)で免疫を強くするので病気にならないから予防接種は必要ない」という「予防接種反対派」の方がいますが、それもまた単なる「信念」や「幻想」です。
 もしそうでしたら、昔の人はそういう病気には罹っていなっかったはずですので、現在にその病気を持ち越すはずがないでしょう(!)。
 たとえ「自然食品(など)で免疫が強くなる」としてもそれはかなり限定的であって、そうすることで病気が防げるわけではありません。病気になるのは「全般的な免疫が弱い」から罹るのではなく、「その病気を起こすウィルスや細菌に対しての免疫がない」のが主な理由です。予防接種はまさにそこの免疫を付けて、体に既にその病気に罹りました、という記憶をさせることでその病気にならないようにすることです。 
 その役割を自然食品などは果たせないのは自明です(決して、自然食品自体の否定ではありません)。
 アメリカで、18世紀ヨーロッパの伝統的な生活を営み、近代的な科学技術の享受をほぼ否定して予防接種を拒絶するアーミッシュの集団に、2014年はしかの集団発生が起きたことは、自然食品重視でもやはり予防接種をしておかないと防げない、という事情を明快に示しています。この集団の多くの方々は、その後はしかの予防接種をうけました。
 
Ⅱ;水ぼうそうやおたふくかぜは2回受ける必要があるのか?

 予防接種を一回うけて水ぼうそうやおたふくかぜに罹った方がたくさんいます(軽く済むことが多いです)。これこそが、一回接種ではその病気にならないためには不十分な証拠です。欧米では1歳に初回、その後4~6歳で追加の接種をする国が多いのですが、それは「流行しない国や地域」でのスケジュールです。
 現在の日本は、定期接種になってまだあまり時間が経っていない水ぼうそうや、未だ定期接種になっていないおたふくかぜは、年間数十万人の患者さんが発生する国ですので接種の2回目は早い方がよいと考えます。1回目と2回目をどの程度あけたらよいかの世界共通の公式見解はありませんが、アメリカCDC(疾病予防管理センター)の発行する書物(通称、ピンクブック;Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases)では、水ぼうそうは3カ月以上、おたふくかぜは4週間以上あけて、と書かれていますのでそれに従います。
 水ぼうそうでは、水ぼうそうウィルスでの脳炎や重症の肺炎と将来の帯状疱疹、おたふくかぜは脳炎や後遺症としての難聴(数百名に一名ほど)を予防することが、ワクチンの最大の狙いです。
 水ぼうそうやおたふくかぜはそういう怖い一面を持つ病気だから予防接種で防いだほうがよいのです。

Ⅲ;日本脳炎のワクチンは「標準が3歳」だから、早いうちに接種する必要があるのか?
 
 世界には様々な地域でその地域特有のウィルスやダニが脳炎を起こしますが、日本脳炎はそのうちの一つです。
 2011年(平成23年)7月に那覇(首里末吉町)在住の1歳の男の子が日本脳炎に罹り、後遺症(退院時には歩けなく眼も見えなかった)が残りました。日本脳炎のウィルスに感染した人のごく一部の方に脳炎の症状<高熱、けいれん、意識障害など>がでます。脳炎は、どんなウィルスなどが原因であっても、命を失ったり後遺症が残ることが多い最重症の病気です。日本の南部は、日本脳炎の抗体を持っている豚が多い(つまり、日本脳炎のウィルスに罹患した豚が多い)ので、それらの豚の血液を吸った蚊がヒトを刺すと、ごく少量のウィルスが体に入ります。そのことで日本脳炎になる可能性があります。
 公費の負担が生後6カ月からある日本脳炎は、生後6カ月で接種を開始するべきです。
 生後6カ月から2歳までは、3歳以上の一回量の0.5mlではなく、一回量が0.25mlです。  
 これは、「2歳以下が副反応が多いから半分の量にした」のではなく、インフルエンザの予防接種と同様に、日本脳炎の予防接種を申請する際に、生後6カ月から2歳までが一回に0.25ml、3歳以上が一回0.5mlで治験をして抗体の上昇が十分あったのでその接種方法を申請したからからです。
 ですから、それはインフルエンザの予防接種の接種量の年齢による違いとまったく同じ事情です。
 日本脳炎の接種が「標準で3歳」となっている理由は不明で、調べても判りません。
 「流行する地域では生後半年から接種」と世界保健機構(WHO)も言っていますし、日本小児科学会も、そう勧めています。
 「3歳までには他に予防接種がたくさんある」「2歳以下のこどもは日本脳炎にかからない」という、その理由らしきものは、どちらもが嘘です。
 「3歳までの他の予防接種がたくさんある」と言われたのは、1歳までの予防接種が3種混合(DPT)、BCG、ポリオ生ワクチン(2回)しかなかった頃のことです。接種で忙しいはずがありませんし、「2歳以下のこどもは日本脳炎にかからない」のは、罹った子供がいますから、嘘です。
 「年齢/年齢群別の日本脳炎抗体保有状況、2019」(https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/2019/Seroprevalence/je2019serum.pdf)が発表されています。そのグラフを見ると、3歳からは急激に抗体保有者が増えていますが、それはおそらく3歳からの日本脳炎の予防接種のおかげだろうと思われます。一方、0歳で比較的高いのは、母親から胎盤を通してもらった抗体だと考えられますが、1歳で少し抗体保有者が増えて2歳で少し減っているのは、比べる集団が同一集団ではないので厳密には比較ができませんが、生後6か月からの日本脳炎の予防接種のおかげだけだと仮定すると2歳で抗体保有者が増えているはずですので、事実に反します。つまりこのことは、0~2歳で日本脳炎のウィルスに感染する子供さんが少なからずいることを示す、と考えられます。
 
 私は4名の脳炎の患者さんの主治医となりました。それぞれ原因はEBウィルス、インフルエンザ(A香港型)、ロタウィルス、原因不明のウィルスでした。 
 EBウィルスでの脳炎の男児は、発熱とけいれんで入院したその日に呼吸がとまり目を閉じることができなくなりました。その状態が2日間続きましたが最終的には回復しました。脳の一部に空洞ができましたが成長・発達はその後も正常でした。
 インフルエンザA香港型での脳炎の4歳の女児は、1週間41℃とけいれんが続きました。その頃はまだ診断キットも抗インフルエンザ薬(タミフルなど)もない時代です。熱が下がって退院しましたが、その後は性格が変わりまたよく転倒するようになりました。
 診断は、2回の血液検査の抗体価の上昇で確定しました。
 ロタウィルスが原因であった脳炎の女児は3歳でした。嘔吐と下痢・2回の短時間のけいれんでロタウィルス胃腸炎と診断して入院させましたが、入院したその日の夜間に短時間のけいれんを繰り返して、翌朝診察に行った時には目が開いたままで頭も動かせない状態でしたが、呼吸はしていました。ちょうど赤ちゃんが成長する過程と同様に、まず頸が座って寝返りをし、お座りできて歩くようになり、次第に運動機能は回復しましたが、微細な指の動き(衣類のボタンをかける、箸を持って使う、など)が不十分になりました。
 原因ウィルスが不明だった中学3年生の女子は、救急に発熱と「立てない」ことで受診しました。4つんばいの状態でした。あまりにも変な様子なので入院をさせましたが、翌朝5時にけいれんして目が開いたままで呼吸が止まり、その後は機械で呼吸をさせました。最初の数日間は問いかけにもわずかに首を振っていたのですが、その後は全く反応なしでした。そして全身状態がだんだんと悪くなり(=血圧と呼吸機能がだんだんと下がっていった)、約2週間後に亡くなりました。全身状態が悪くなっていった頃に撮った頭部CTでは、脳全体が真っ黒で、これは脳細胞が死んだ状態であることを示しています。
 脳炎はそのような病気です。

Ⅳ;肺炎球菌は生後7カ月以上なら接種回数が3回に減るから、それまで待った方がよいか?
 
 ナンセンスな質問です。もし、これが正しいのなら、1歳以上で接種をすればもっと回数が減り(肺炎球菌が2回です)、あるいは5歳になるまで待ったら、もう打つ必要が無くなってしまいます(!)。
 「大きくなれば接種回数が減るから大きくなるのを待つ」のであれば、「予防接種はしない」ことになります。
 肺炎球菌は、生後6カ月前頃から2歳頃までに発症することが多い髄膜炎などの重症感染症の2大原因菌です。従って、生後6カ月頃までに十分の抗体(3回は必要)を付けておくことが必要です。その間に肺炎球菌の予防接種を待つ(=しない)のは、無防備でいることと同じです。
 同じく「抵抗力がついたら予防接種を受ける」のは転倒した考えです。予防接種を受けることで「抵抗力をつける」わけです。
 私が担当をした髄膜炎(ヒブと肺炎球菌が原因菌でした)の患者さんは、幸い全員が後遺症なく回復しましたが、髄膜炎は治療が遅れたりあるいは治療が失敗すると、命を落とす病気です。
 私が公立久米島病院にいたときに、年配の女性の髄膜炎の患者さんが入院していました。主治医は内科の先生でしたが抗生剤を2種類使い改善がなかったので、病棟回診の時に私は主治医に「他の菌(リステリア)の可能性があるのではないですか?」と聴いたのにも関わらずに投薬の変更や追加もなく、主治医が休暇(年休)を取って代診の主治医も同じ治療を続けて、私の当直当番の夜にその女性は亡くなりました。その後に髄液の培養の結果が返って来ましたが、原因菌はやっぱりリステリアという菌で、その2種類の抗生剤では全く効かない菌でした。
 髄膜炎では初期治療が重要で、適切な治療が遅れたりするとこのような結果になります。

当院の予防接種に関する方針

「推奨する接種プラン」に外れている方は、最速で終わる個別のプランを提示します。
スケジュールを組む上での当院の考えは以下の通りです。

 予防接種は接種を延期するとその間にその病気にかかる可能性があるので、「接種を延期をする)」ことは間違いだと考えます。風邪(咳や鼻水の症状)やぜんそくや細気管支炎でのぜーぜー、アレルギー性鼻炎での鼻水・くしゃみや下痢での整腸剤、中耳炎や「とびひ」などでの抗生剤などの内服で治療中であっても、ある程度t通常の生活ができていたら予防接種は予定通りに受けてください。
そのような病気の場合で薬を内服中であっても、予防接種によって獲得される抗体には影響ありません。ただしロタウィルスワクチンは下痢のときは控えてください。

① 定期接種も任意接種も、すべてを同時接種で受ける。
 
 任意接種とは「定期接種ではない予防接種」です。「任意」とは、「接種をするかどうかは最終的には親が判断をする」という意味での「任意」(=意思)で、「受けても受けなくてもどちらでもよい」という意味でありません。
 予防接種がアグレッシブな行為・作業であるからこそ、可能な限り早く接種する(=同時接種)ようにしましょう。


② 水ぼうそうやおたふくかぜは最低2回は接種する。

 水ぼうそうとおたふくかぜは、一回の接種では充分な抗体獲得が期待できない(一回の接種では、それだけでは充分な抗体がつかない場合と、一旦充分に抗体がついても時間の経過とともに抗体が減って行く場合の両方)ので、水ぼうそうは最短で3か月、おたふくかぜは最短で4週間空けての2回接種をしてください。
 水ぼうそうは1,2歳での公費の負担で無料で接種できますが、おたふくかぜは自費となります。
 
 その病気が流行していない国や地域の生ワクチンの2回接種のスケジュールは、1回目が1歳で2回目の接種が5歳から7歳頃です。欧米等の非流行地域ではそういうスケジュールであり、2回目接種までにその病気にかかる可能性が極めて低いこととそのような接種間隔の方が抗体が長く持つからです。現在の日本でのはしか・風疹ワクチン(MRワクチン)は現在は流行していないという理由で、そのような接種間隔となっています。
 現状として水痘やおたふくかぜの患者さんが数多くいる日本は非流行地域ではなく、5歳から7歳頃までの2回目の接種までにその病気にかかってしまう可能性が大きいので、接種間隔はもっと狭いほうがよいと考えます。

③ 日本脳炎は東アジア・東南アジア・南アジアの地域に限られた疾患であり、日本では南の地域ほど罹りやすい特徴があるので、「標準で3歳以上から接種」ではなく、公費の負担がある「生後6カ月から」の日本脳炎の予防接種を勧める。
 
 千葉県では2015年に生後11か月の子供が日本脳炎に罹ったことから、生後6カ月からの接種を勧めています。
 また日本小児科学会も、おそらく千葉県での発症者を踏まえてだと思いますが、「日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児、最近日本脳炎患者が発生した地域・ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、生後6カ月から日本脳炎ワクチンの接種を開始することが推奨されます。」と「お知らせ」を出しています。
 実際に日本脳炎に罹る可能性がまずない北海道でも、人の移動(国内や海外)が多くなってきていることから2016年4月から日本脳炎は定期接種となりました。
 ですから2011年に1歳の子供が日本脳炎になった沖縄では、生後6カ月からの接種が必要です。

④ ロタウィルスワクチンに関しては、3回接種のロタテックを勧める。
 
 ロタウィルスは、冬場から春先に流行する子供の急性ウィルス性胃腸炎(嘔吐や下痢)の原因のウィルスでは最も多いです。ロタウィルスの胃腸炎では嘔吐が続いて脱水となり入院になることが多いのですが、小児の脳炎では、インフルエンザ、突発性発疹を起こすウィルスについでナンバー3の原因ウィルスでもあります。
 ロタリックスは2回接種でロタテックは3回接種で、ともに経口のワクチン(シロップ)です。ロタリックスとロタテックを直接比較したデータはありませんが、ロタウィルスワクチンは、入院を要するような重症のロタウィルス胃腸炎や脳炎を防ぐ目的である、と私は考えています。
 メーカーの公表しているデータを比べると、重症のロタウィルス感染症の予防効果が大きいと思われるロタテックをお勧めします。
 ロタリックスは日本では先行発売だったので日本ではロタテックよりはシェアは大きいのですが、海外ではその逆です。

⑤ 毎年のインフルエンザワクチンの接種を勧める。
 
 現状としては予防効果が十分ではない点はありますが他に予防する手段がありませんので、集団免疫をつける意味合いでも予防接種は受けるべきです。
 インフルエンザに罹る人が減れば、インフルエンザでの悲惨な症状としてのインフルエンザ脳炎や脳症に罹る子供が減ります。
 若年者のインフルエンザが減れば高齢者のインフルエンザの罹患者も、そしてインフルエンザで亡くなる高齢者も減ります。
 インフルエンザに罹患すると、学校は最低で5日間の出校停止(学校保健法では、発熱してから5日間、解熱してから2日間<乳幼児では3日間>経過してからの出席可能となります)となりますし、その間に家族にうつってしまうことも多く、親が仕事を休まなくてはならなくなります。
 そのように、インフルエンザに罹ることは社会自体にとっての大きな負担となりますので、極力かからないように予防接種を接種しましょう。

以下は、<できればお勧め>です。

⑥ 3回目の水痘ワクチン<自費>を勧める。
 
 水ぼうそうワクチンは、1,2歳のうちに最低3か月開けて2回接種をしますが、2回接種をしても水ぼうそうに罹ることがあります。例えば保育園で流行したときや親が帯状疱疹になったときです。その場合、症状は軽くて熱が出ることもありませんのが、保育園や学校は休まないといけないし面倒を見るために保護者が仕事を休まないといけない可能性もありますので、3回目の水ぼうそうワクチンを接種しておいてもよいと思います。
 2回目の水ぼうそうワクチンから、3か月後以降の接種で、3回目の水ぼうそうのワクチンを接種した方で水ぼうそうに罹った方は、当院ではこれまでにいません。 

⑦ 4種混合ワクチン、あるいは5種混合ワクチンの4回目の接種が終了して11歳から13歳でDT(2種混合)を接種しますが、それだけでは特にポリオや百日咳の予防効果が早くなくなってしまうので、4~6歳での追加(5回目;自費)を勧める。
 
 欧米等ではポリオの最終接種は、おおむね4歳以上です。抗体を長持ちさせるからです。
 日本では1歳半程でポリオと百日咳の予防接種が終わってしまいます(4種混合の最後が、1歳5か月程度)ので、恐らくその後の抗体が長続きはしないと考えます。
 世界的に見て1歳半程の小さい年齢でポリオと百日咳の接種が終了する国は、先進国では日本だけです。

 できれば4種混合ワクチンをこの年齢で追加したいところなのですが、現在の4種混合ワクチンは、4回までの接種の適応しかないために4歳から6歳での追加接種(通算で5回目)は、3種混合(DPT)と単独ポリオワクチンとの両方の接種となります。
 ちなみに単独ポリオワクチンはソーク株由来のワクチンです。以前にはスクエアキッズという、3種混合+ソーク株由来のポリオワクチンが混合された商品があったのですが、ある理由で生産が打ち切りとなり現在では使用不可です。世界的はポリオワクチンは、このソーク株由来の成分が使用されており、現在日本で使われている4種混合ワクチンにはセービン株という、日本で使われいた生ワクチン由来の成分が入っています。セービン株由来の単独ポリオワクチンはありません。

⑧ 11,12歳で接種をするDT(2種混合)の代わりにDPT(3種混合)を接種<自費>する。

 百日咳の抗体を維持するためには、不活化ワクチンなので、比較的大きな年齢での追加は必要です。
 ヨーロッパや北米等では、百日咳を含むワクチンは、おおざっぱには小さいころに4回、4~6歳ころに一回、12歳前後で一回の合計6回の接種が多いのです。
 それに見習うと、DTはDPTの百日咳(P;Pertussis)が抜けたもののなので、日本の現状の定期接種だけでは百日咳の抗体が長続きはしません。

⑨ 髄膜炎菌ワクチン(メンクアッドフィ)<自費>を、2歳以上で日本脳炎などその年齢までに接種するべき予防接種がすべて終了している方に勧める。
 
 4価の髄膜炎菌ワクチンで、2歳以上が適応の筋肉注射です。「とりあえず」一回の接種です。
 髄膜炎菌は耳慣れない菌ですが、IMD(invasive meningococcal diseases;侵襲性髄膜炎菌感染症)の原因菌であり、メンクアッドフィは、IMDを起こしやすいサブタイプの5つ(A、B、C、W-135、Y)のうちの4つ(A、C、W-135、Y)をカバーしています。
 どのサブタイプが多いかは世界の地域で違い、日本では以前はBとYが多かったのですが、最近はYが多くなっています。
 IMDは、髄膜炎菌の重症感染症(菌血症や敗血症、髄膜炎や髄膜脳炎、ウォーターハウス・フリードリクセン症候群)のことです。
 IMDは進行が早く、数時間から2日間程度で死に至る可能性が大きい疾患です。
 患者さんの多くは、0歳から5歳までとティーンエージャーです。
 B型に関しては、海外の製品(Bexsero、Trumenba)しかありませんし、また5価のワクチンはありません。
 髄膜炎菌は、咳やくしゃみに含まれて他人から感染して鼻咽頭の粘膜で増え、そこから血管に侵入して血流に乗って多くの臓器に拡がっていきます。
 菌血症や敗血症では、突然の発熱と、特徴的なのは皮下出血(点状あるいは大きな出血斑)を伴うことで、ショックや多臓器不全になることが多いです。昔のテレビドラマの「ER」で、そのような場面がありました。
 髄膜炎では、他の菌による髄膜炎と同様で、発熱・頭痛や嘔気・嘔吐と、場合によっては意識障害があります。
 IMDでは治療がうまくいっても後遺症を残すことが多く、聴力の喪失(聞こえない)や神経学的な損傷(うまく動かせない)、そして四肢の喪失(腕や脚の切断)などがあります。
 Youtubeでもそのような患者さんを見ることができます。
 日本でも年間に数十人の発生があり、その多くは寮で集団発生していて亡くなる方がいます。
 確かにかかるリスクは小さいのですが、一度かかるとその重症度は群を抜いて高いので、接種を考慮してもよい予防接種だと思います。
 アメリカなどでは定期接種となっていますので、留学する予定の方そして髄膜炎菌の感染症が流行している地域に行く予定の方(特に南サハラ地域)は是非接種してください。

以上です。

今後の展望

 今後のワクチンの変動の可能性は、

① 生後2か月から接種できる4種混合、ヒブとB型肝炎の混合ワクチンができる。
② 年長児から成人の百日咳感染対策として、「4種混合が1歳半頃に終了してしまっては、それぞれの抗体が長持ちしないことが予想されるので、そのために4~6歳で5回目の4種混合が導入される。」
③ 成人で流行している百日咳の対策として、「現在の11,12歳のの2種混合(DT)をP(百日咳;pertussis)を加えて3種混合(DPT)<正確にはTdap>にする。」
④ 「おたふくかぜワクチンが2回の定期接種となる。」

 今後も混合ワクチンが主流になっていくと考えられます。

 例えば、MR+おたふくかぜ(MMR)、MR+おたふくかぜ+水痘(MMRV)、5種混合(4種混合+ヒブ、4種混合+B型肝炎)や6種混合(4種混合+B型肝炎+ヒブ)が、海外では既に製品があります。
 海外の5種混合や6種混合にはポリオが含まれています。日本がポリオのセ―ビン株での混合ワクチンを目指すのであれば、世界で広く使われている共通の株(ソーク株)とは異なるものになります。既存の海外の5種混合や6種混合を日本に導入する場合に比べると、はるかに多くの時間と手間がかかります。また、多くの時間と資金を使ってそういう製品を作っても日本などだけの通用で決して世界標準にはなりえないと思いますし、世界の製品との互換性も疑問です。
 日本で5種混合や6種混合のワクチンの製造が遅れている(4種混合とヒブが混ざった5価ワクチンは承認待ち)のは、セ―ビン株にこだわっているからです。
 小さい子供さんに、ヒブ・肺炎球菌・B型肝炎・4種混合の4本を接種するときに、6種混合ワクチンがあれば、肺炎球菌と6種混合を接種するだけで終わります。
 また1歳で接種する、MR・水痘・おたふくかぜはMMRVだけで済んでしまいます。

 予防接種の事情を垣間見るだけで、<font color="#ff0000">ワクチンの事情はキャッチアップしているのではなく世界に追い付いていない</font>ことがわかります。

 世界ではいろいろなワクチンが開発されつつありますので、今後も小さい頃に接種するワクチンの種類が増える可能性があります。
 
 科学技術の恩恵を受けて体に不自由なく生きていくために、予防接種は受けましょう。

私が出会った麻疹で亡くなった子供たち

2018年の春、沖縄で麻疹の流行の兆しがあり、麻疹がどれほど怖い病気なのかを具体的に記載して「風邪とはどれくらい違うのか」を鮮明にしておくのがよいと考え、私が出会った麻疹肺炎と麻疹脳炎の患者さんの経過を書きます。
どちらの患者さんもお亡くなりになりました。
それまでは「予防接種は受けた方がいい」程度の認識でしたが、その後は「絶対に受けないといけない」と強く考えるようになりました。
予防接種否定派の「予防接種は受けなくても罹ったら方が免疫が強く付く」「普通の風邪と同じ」、つまり「罹っても後遺症もなくなんともない」というのは単なる幻想で、そのような甘っちょろい願望を簡単に打ち砕くほどのインパクトがあると思います。
多少生々しい表現はありますがすべて事実です。
このようなことが起きないように麻疹の、そしてすべての予防接種は受けてください。

まずは麻疹肺炎の患者さんです。
全国的に麻疹が流行していた時期(1995年)で、私が京都大学医学部を卒業して最初に赴任した大阪の病院(済生会中津病院)に併設された乳児院にいた女の子です。
当時生後8か月で麻疹の予防接種は受けていませんでした。
その乳児院でもしばらく前から麻疹の患者さんが断続的に発生していて、その度に他の子供が罹らないように予防として免疫グロブリン(血液製剤です)をお尻に注射することを繰り返していました。ちょうどその時期にその女の子が高熱を出して水分や食事がほとんど摂れず、麻疹特有の口腔内のぶつぶつ(コプリック斑)があったので麻疹と診断して入院(乳児院内で隔離で点滴)させました。そして翌日の土曜日には、熱は持続していましたが麻疹特有の発疹が出てきて、多少元気になったように見えました。
日曜日で病院は休診で外来はなかったのですが、その女の子の状態が気になって午前中に乳児院に診察に行きました。発疹が出てまだ日が浅いのですがその日はきれいに発疹が消えていました。麻疹の発疹は、通常は数日間の間に次第に拡大・癒合して色素沈着して時間が経ってから消えるので、普通の経過では全くありませんでした。
熱が少し下がって、でも何となく元気がなく顔が普段よりも白くて(もともと色白な子でしたが)おかしいな、と思いましたが、当時研修医だった私にはそれ以上のことが全く分からなかったのです。
診察中に呼吸が段々とゆっくりに浅くなっていって目をつぶりかけて寝入りそうだったので「ああ少し楽になって眠たいのかなぁ」と思い、目を離してその症状などをカルテに記載して1分ぐらい目を離して再びその子に目を向けると、一見すると熟睡しているような気がしたのですが実は胸の動きが全くない(つまり呼吸が止まっている)ことに気づきました。
あわてて私は指導医を呼んであらゆる蘇生の試みをしましたが、再び呼吸をすることはありませんでした。
呼吸が段々とゆっくりになっていたのは、亡くなる前のサインだったのです。
死因をはっきりとさせるために亡くなった後に撮ったレントゲン写真では両方の肺が真っ白でした。
麻疹肺炎でした。
医療の道に入ってまだ数か月程度だったのですが、私が受け持った患者さんのなかで亡くなった患者さんは初めてだったので、それまでになかった大変なショックと敗北感を味わいました。今でもその経過の記憶が鮮明に蘇るほど強烈で、その女の子の亡くなった後の微笑んでいるような安らいだ白い顔の面影を今でも忘れることができません。
麻疹の経過中に、普通は発疹が拡大して癒合していくのは違って発疹が急に消えることがあり、これは重症化のサインで「麻疹の内攻」と言います。
この女の子の場合もそうです。

麻疹には治療薬がなく、水分補給の点滴や、麻疹からの細菌感染症(二次感染)を治す抗生剤の点滴はできますが、いったん上記のような経過をとると、悪化を防ぐ方法がありません。
麻疹は、麻疹の予防接種を受ける前の0歳と1歳児が最も罹りやすくて重症化しやすく、そして罹った後十数年後に発症して緩慢に死を迎えるSSPE(亜急性硬化性全脳炎)になりやすいのです。
現在、麻疹は「麻疹・風疹混合ワクチン」<MRワクチン>を接種することで予防できますが、定期接種は1歳になってからですのでいったん麻疹が流行し始めると生後6か月以上で生後11か月以下の子供さんたちがかかりやすくなりますから、そういう状況で「生後6か月からの緊急のMRワクチンの予防接種」を実施したことがあるのは、麻疹が予防接種でしか防げないからです。

次は麻疹脳炎の例です。
私が沖縄に赴任した最初の病院が那覇市立病院でしたが、その頃(2001年)は麻疹が流行していました。
那覇市立病院の病棟には「麻疹部屋」という名称の、麻疹の患者さんが集められて入院している大部屋がいくつかあったほどです。
ある日の午前中の遅い時間帯だったと記憶しますが、小児科外来で私が診察している時にすぐ隣の診察スペースで突然慌ただしい動きがあって何が起こったのかを見に行ったら、少し大きい男の子が痙攣していてぐったりとしていました。しばらくして痙攣が止まった後には、呼吸が止まりました。
一見してそのぶつぶつから麻疹と分かりました。
スタッフが慌てて処置にまわり、その場で管を気管まで入れてバッグで呼吸させたまま移動式ベッド台で病棟に移動して入院となって機械で呼吸をさせました。
その6歳の男の子はあらゆる処置にもかかわらずその後全身状態の改善がないまま、意識が戻ることもなく一週間ほどして亡くなりました。
亡くなる前の頭のCT写真は、脳全体が真っ黒に写っていて脳細胞が死んだ状態でした。
これが麻疹脳炎です。

脳炎とは、脳実質に主にウィルスが感染する状態や、免疫反応で脳実質が反応する状態(ADEM;急性散在性脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群など)です。
インフルエンザやヘルペスウィルス・ロタウィルス、突発性発疹を起こすウィルスや麻疹や水痘などのウィルスで起きることが多いのです。
主な症状は、40~41℃の高熱や意識障害(何をしゃべっているかわからない、歩く子が歩けない、何を見ているのかわからない、など)と痙攣で、命にかかわることが多く、また存命できても後遺症が残ることが多い病気です。
治療法はありませんから、よくなるかどうかは時の運で、誰にも分かりません。
その子は麻疹の予防接種を受けていませんでした。

沖縄には以前「麻疹に罹っても他人にうつしたら本人は麻疹の症状が軽くなる」という迷信がありましたが、現在でもあるかも知れません。だから、その子は麻疹になっても積極的に外出していました。つまり他人にうつしまくっていたのです。
その子の親はそういう考えでした。
「うつして軽くなるような病気だったら予防接種は必要ない」ので、予防接種は受けていなかったのです。
さすがに今ではそのような考え方をしている方は沖縄にはいないと思いますが、、。
でも、21世紀の現在のネット上のいい加減な情報は、それと同じレベルです。
ネットの情報は、しっかりと自分の考えに照らし合わせて吟味・評価して取捨選択するべき(ネットリテラシー)です。
時間をかけて検索して「くだらない情報(真偽がはっきりとしないデマ情報)」にいくら当たっても、享受できるメリットが全くありません。

麻疹の予防接種を多くの方がしているいる状況で、麻疹が流行してきたらおそらく麻疹の予防接種をしていない人たちが集中的に麻疹に感染するはずです。
そしてその人たちが、麻疹ウィルスをばらまくのです.
麻疹の基本再生産数(患者さんが1名いたら、抗体を持たない集団で何名の人にうつすか)は、概ね18でインフルエンザの2~3と比べると圧倒的に高い数字で、感染症の中では最高の数字(つまり最もが感染力が強い)です。

麻疹は人から人にしかうつらないので、予防接種で根絶可能な病気です。
過去には、天然痘が予防接種で根絶できました。
麻疹を根絶するためには、予防接種を必ず受けるという各人の努力が必要です。
「罹る可能性があり、重大な後遺症が残る可能性がある」からこそ予防接種が必須です。